ダイビングを楽しんでそろそろ終了の時間。浮上して安全停止をしようと水面に向かっている時に「ピーピー」とどこからか聞こえてくる音に聞き覚えがあるダイバーも多いのではないだろうか?あの音の正体は浮上速度が速い時になるダイブコンピューターの警告音で、本来聞こえてはいけない音だ。
ダイビングをしている人であれば誰でも知っている「急浮上をしてはいけない」というルール。実際にどれくらいの速度で浮上すると急浮上になるのか。そもそも急浮上をしてはいけない理由とは何かを紹介していく。
なぜ急浮上をしてはいけないの?減圧症以外にも理由がある!
そもそもなぜ急浮上をしてはいけないのかというと実は理由はいくつかある。ダイビングの教科書には記載がされていないが、実際に海でダイビングをしていると急浮上は本当に危険な事だと感じる事が沢山ある。ダイビング中の急浮上はやはり危険な事なのだ。
そもそも減圧症とは
急浮上をしてはいけない理由として最も有名な事が減圧症にかかりやすくなるという事だ。だがそもそも減圧症はなぜ発症してしまうのかご存じだろうか?
一般的に多くの人に楽しまれているダイビングの事を「レクリエーションダイビング」と呼び、このダイビングでは最大で40mまでの水深でダイビングを行う事を推奨している。水深40mがどんな状態なのかというと陸上にいる時と比べ5倍の圧力が体にかかっている状態!この気圧の変化がどれくらいすごい事なのかというと、日本で最も高い山「富士山」の山頂に対して陸上の気圧は約1.6倍。たったこれだけの気圧の変化でもポテトチップスの袋はパンパンになり、今にも爆発しそうな状態になる。5倍の圧力がかかっている状態がいかにとてつもない事かがお分かりいただけるだろう。ちなみに水中で1.6倍の圧力を感じるには水深6mに潜れば体感できる。水深6mは富士山と一緒である。
減圧症になる理由だが、水などの液体には実は様々な気体が溶け込んでいる。最も身近なものでいうと炭酸飲料がそうで、例えば炭酸水は水に二酸化炭素を溶け込んでいられる限界まで溶け込ませて制作している。液体はかかっている圧力が増せば増すほど気体が溶け込むという法則(ヘンリーの法則)があり、ほとんどが水分でできている人間の体にも同様の事が起こる。その為水中では陸上いいるときよりも沢山の気体が体に吸収できる状態になる。ダイビングは水中で空気を呼吸する遊びなので、この空気が体に特に溶け込んでいく。その中でも減圧症の原因となるのは窒素である。
圧力がかかっていれば液体に溶け込んでいられた気体だが、この圧力が無くなると溶け込み続けることができなくなる。そうなると液体中に泡ができる。炭酸飲料の蓋を開けると泡が沢山出来るのがその現象だ。人間の体も同じで体に沢山の窒素が溶け込んでいる状態で気圧が無くなると気泡が出来てしまう。これが減圧症の正体だ。
その為レクリエーションダイビングでは陸上にもどった時に体の中で気泡にならない量までしか水中に滞在しないようにして減圧症にならないようにしている。
急浮上をすると減圧症になりやすくなる
体の中に溶け込んだ気体が泡になると減圧症になってしまうと説明したが、なぜ急浮上を行うと減圧症のリスクが上がるのだろうか?実は液体中の気体は圧力が減る速度が速いと気泡ができやすくなるのだ。
例えばペットボトルに入った炭酸飲料を倒してしまった時、一気にふたを開けるよりもゆっくり開けたほうが泡が吹きこぼれないという体験をしたことは無いだろうか?人間の体も同じで一気に圧力を低くすると体内で気泡ができやすくなる。急浮上を避けなくてはならない最も大きな理由だ。
耳を傷めてしまうことも
体の中には様々な空間があるが、最も影響を受けるのが耳の鼓膜の内側(中耳腔内)だ。通常はダイビング中に水深を下げていく時のみ耳に違和感を感じるが、たまに浅い水深に移動している時に違和感を感じることがある。これを「リバースブロック」という。通常リバースブロックが起きた時は水深を浅くするのをやめ、耳の違和感が無くなるのを待ち水深を上げる。そしてまた違和感を感じたらストップして…といったさ行を繰り返して対処するのだが、急浮上してしまうとすぐには水深の変化を止めることができなくなる。リバースブロックへの正しい対処ができないと耳の違和感が痛みになりやがて耳の器官を損傷してしまう可能性がある。耳の器官を損傷してしまうと日常生活に支障が出る可能性もある為これも起こしてはならない理由の一つだ。
頭上に物があると頭を打つなどの危険がある
急浮上してしまってもすぐに浮力の調整を行い浮上速度を遅くする、もしくは体の浮き上がりを停止することができればいいが、大体の人は慌ててしまい器材をうまく使用することができず水面まで急浮上し続けてしまう。そうすると次に怖いのが接触事故だ。水面に大きなものが浮いていると頭を勢いよくぶつけてしまいケガをする可能性もある。もしかしたら意識を失ってしまう可能性もある。もっとも怖いのはそのタイミングで船が近づいてきている場合で、場合によってはケガでは済まない可能性も出てくる。急浮上をしてしまうというのは非常にリスクが高い事なのだ。
急浮上になってしまう原因
「急浮上の危険性はわかった!でもなんで急浮上をしてしまうのだろう…」 正直みんな急浮上したくて急浮上をしているわけではなく、気がついたら急浮上をしてしまっていたのだ。ここではそんな急浮上を起こしてしまう原因を解説する。
器材の操作ミス
ダイビングを始めたばかりの人や久しぶりにダイビングをした人が稀に行ってしまうのがBCDの給気ボタンと排気ボタンを間違えて急浮上してしまうというトラブルだ。これを防ぐためにはまず使用する器材の操作方法をマスターすることが大切。特にレンタル器材を使用する人は要注意で、BCDの給気ボタンはメーカーによって形状が異なる。その為ダイビングを行う前に給気ボタンと排気ボタンの位置を必ず確認し、押し間違いが無いように注意が必要だ。
中性浮力や浮上などのスキルが苦手
そもそも体が勝手に浮き上がるという事は特殊な潮流などが無ければ起こることは無い。「ダイビング中は常に中性浮力を保つ」というダイビングの基本的なルールをまずは守れるように中性浮力や浮上などの浮力コントロールのスキルをマスターしていないと急浮上をしてしまう可能性が高くなる。
ボートダイビングなどでまっすぐ浮上する時
ほとんどのビーチダイビングは緩やかに水深が変化していく。その為安全停止を行う浅い水深まで徐々に浅くなっていくのでダイビング終了時の浮上の際に急浮上になる可能性は比較的少ない。しかしボートダイビングは通常まっすぐ水面に向かって浮上を行う為少し浮上しただけでもかなり水深が浅くなってしまう。ボートダイビングでの浮上時は特に浮上速度に気を付ける必要がある。
装着していたウエイトが外れてしまった時
ベルトタイプやBCD一体型タイプなどウエイトを装着する方法は様々だが、正しく装着できていなかったり何かに引っ掛けてしまった時にウエイトが外れてしまう可能性もある。水中でウエイトが外れてしまうと急浮上になりやすくなる為、装着するときには念入りにチェックをしておこう。
急浮上が始まってしまった時の対処法
気持ちよく水中を泳いでいたらどんどん地面が遠のいてく…気が付いた時には体がどんどん浮いてきてしまって「ヤバイ!」と思った時には既に水面がすぐ近く…急浮上をしてしまった。という事がある。ここではそんな急浮上が始まってしまった時に行うべき対処法を解説していく。
絶対に呼吸を止めてはいけない
もし急浮上が始まってしまった時に最もやってはいけないのはもあわてて呼吸を止めることだ。呼吸を止めて急浮上してしまうと肺にダメージを与えてしまう可能性がある為もし急浮上を止められない状況になってしまっても呼吸だけはし続けるのが大切だ。
BCDやドライスーツから空気を抜く
急浮上が始まってしまった時にはすぐにBCDやドライスーツから空気を抜く必要がある。BCDには一気に空気を抜く事が出来る機能が備わっていることが多く、BCDのモデルによってはどんな姿勢でも瞬時に排気をすることができる。自分のBCDを持っている人はしっかりその機能を使用できるパーツの位置を見なくても手探りで見つけられるように位置を確認しておき、練習しておこう。レンタル器材の場合にはこの機能が備わっていないタイプだったりもしくはうまく作動しない可能性もある為使用前に念入りに点検をしておく必要がある。また、BCDから排気を行う際の姿勢も大切で、BCDの種類によって動作の大きさや体の方向けなどが変わる為、レンタル器材の場合は1本目の浅いところで何度か練習を行った方がいい。
ドライスーツからの排気は肩と手首(もしくはどちらか一方)にある排気バルブから行う。通常肩についている排気バルブのほうが排気スピードが速いので、肩バルブからの排気方法を練習をしておこう。もしバルブからの排気が間に合わない場合には首や手首などの水が入ってこないように止めている部分を広げて一気に排気する必要がある。
ロープや岩につかまる
もし急浮上が始まってしまった時に近くにロープや岩などがある場合にはそれにつかまり浮上を止めてから排気を行おう。特にこの方法はウエイトが外れてしまった時には必須だ。岩をつかむ際には自然にダメージを与えないようになるべく注意しよう。
ウエイトが外れてしまった場合は再度装着する
ウエイトが外れた状態でもウエットスーツならばBCDから空気を抜く事で急浮上を止める事ができるかもしれない。ドライスーツでは完全に止まるのは難しいかもしれない。どのみちウエイトが無い状態ではウエットスーツでもドライスーツでもいずれ体が浮いてしまうので、再度ウエイトを装着する必要がある。一人で装着できるように練習をしておくことが理想だが、もしも難しい場合にはバディに手伝ってもらおう。その為にもダイビング前のバディチェックでお互いのウエイトシステムを把握することは大切だ。
正しい浮上速度とは?
正しい浮上速度は「1分間に18m浮上する速度よりもゆっくり、もしくはダイブコンピューターが指示する速度」となっている。現実的には水中で1分間に18mを超えない速度を計測する術はない為、今は「ダイブコンピューターの指示する速度」に従う事が一般的だ。ほとんどのダイブコンピューターのモデルでは1分間に10m浮上する速度を超えると警告音が鳴るように設計されている為、ダイブコンピューターの指示を守ればかなり安全に浮上を行う事が出来る。しかし、冬場などにフードをかぶっているとダイブコンピューターの警告音が聞こえづらい事もある為、浮上を行う時には水面の安全確認と共にたまにコンピューターの画面を確認する必要がある。
最新のダイブコンピューターはこの音が聞こえない問題を解消するために、浮上速度が速い時の警告音と共に振動をするタイプや、カラー液晶で画面が赤くなることで警告を知らせてくれるものも多いので、より安心だ。
急浮上を防ぐ方法や対処の仕方を練習する方法
PADIスペシャルティコースに参加する
PADIには中性浮力やドライスーツの使用方法をマスターするスペシャルティコースと呼ばれる講習があるので、ダイビングスキルを練習したい方はこれらの講習に参加するのがオススメ。
ピークパフォーマンスボイヤンシースペシャルティコース
中性浮力のスキルをマスターするのに最適なコース。講習中にBCDの使用方法にも慣れることができるので、急浮上のリスクを回避する練習にもなる。「ダイビング中は常に中性浮力を保つ」という基本ルールを身につけることができる。
ドライスーツダイバースペシャルティコース
ウエットスーツよりも中性浮力を維持したり排気をするのが難しいドライスーツの使用方法をマスターすることができる。講習中に急浮上が始まった時の対処法なども練習するのでドライスーツでのダイビングを行う人にとって最適だ。
器材スペシャリストコース
自分の器材の使用方法やメンテナンスを知る事が出来るコース。自分の持っているBCDの機能を最大限に知りたいとにオススメ。器材を長く大切に使用するための方法も知る事が出来るので、一石二鳥だ。
プールで練習できるコースに参加する
ダイビングショップによってはプールでのスキル練習コースを独自に開催をしているショップもある。特に苦手なスキルを納得行くまで練習することができるので、短時間で集中して練習したい人にお勧めだ。当店でも中性浮力や浮上などのお悩みを解決するためのコースを開催しているので是非役立ててほしい。
https://truenorth.jp/tn-diving/license/pool-2/